「アミロイド」って何?

こんにちは、Dr.K(ドクターコージ)です。

多くの方はご存知ないと言うか、
聞いたことのないであろう単語、
「アミロイド」についてのお話。

ある方からご質問を受けて
調べていきながらまとめてみたら、
多くの病気がなぜ起こるのか、
と言う根本原因に関わっているので、
少々専門的なネタではありますが、
健康や予防医学の為にも、
知っておくと良いのでは?
と感じたのでブログにまとめてみました。

少々小難しい話も混じりますが、
まずは基礎知識から。

【アミロイドの名前の由来】
アミロイドとは本来「類デンプン質」
と言う意味を持つ言葉ですが、
ある性質を持つ蛋白質の総称です。
なぜそんなことになったのか?

19世紀に活躍した病理学者
Rudolph Virchowが人体内において
植物の様なデンプンが存在するのでは、
と言う事でデンプンと反応し黒色化する、
ヨウ素液を用いて様々な組織を
染色する研究をしていました。

彼は脳内に反応を示す構造体を発見し、
類デンプン小体(corpora amylacea)
と名づけました。
英語訳するとAmyloid bodyとなります。

Virchowはこの構造体について
炭水化物に類似した物質と考えましたが、
その後様々な研究が進むと、
ポリグルコサンと言う多糖類が絡んだ
「糖蛋白質の球状沈殿物」だと判明。

しかしアミロイドと言う呼称は
そのまま定着して現在に至る、
と言うわけです。

【アミロイドの性質とは】
地球上の生物の体内における蛋白質は、
20種類のアミノ酸分子により構成され、
様々な組み合わせで並んだ構造をしています。

連なった紐状構造のままでは無く、
物理化学的な性質によって、
折りたたまれて小さな球状構造となり、
水に溶けやすい性質を持つ事が多いです。

この状態の様々な蛋白質が、
体の中のあらゆる化学反応に関わり、
生命活動が行われていますが、
本来折りたたまれる形では無い、
誤った折りたたまれ方をしてしまい、
水に溶けにくい繊維状の構造を
取ってしまう事があり、
コレをアミロイドと総称します。

正常な蛋白質は
様々な折りたたまれ方をしますが、
アミロイドはβシート構造と呼ばれる
折りたたまれ方が規則正しく起こっていて、
極めて安定した物理化学的な特性を持ちます。

【アミロイドは体内に蓄積し悪さをする】
水に溶けにくく安定した性質から、
アミロイドが形成されてしまうと、
体内で結晶化し沈着していき、
様々な症状を引き起こしますが、
徐々に進行していきます。

様々な病名がありますが、
その様な病態を「アミロイドーシス」と
総称します。

国際アミロイドーシス学会による
2022年の分類では、
人間に発症するアミロイドーシスは
42種類に分類されていますが、
治療法も無く難病指定されています。

アミロイドが原因となる病気には、
・プリオン病(狂牛病、クールー、クロイツフェルト・ヤコブ病など)
・アルツハイマー病
・パーキンソン病
・ハンチントン病
などがあり、
神経変性疾患と総称される病態の多くに
アミロイドが関与している事が分かりますね。

アミロイドになる前の蛋白質が、
血清タンパク質の場合は
全身の様々な臓器にアミロイドが沈着し、
局所で産生される蛋白質の場合は
特定の臓器にアミロイドが沈着します。

【なぜアミロイドが形成されるのか?】
どうして誤った折りたたまれ方をして、
アミロイドが形成されてしまうのか、
は多くの研究がされていますが、
2023年時点では
「遺伝性」のアミロイドーシス以外は、
原因が判明していません。

ただ特定の腫瘍に伴って局所に起こる場合、
炎症性疾患の患者に続発する場合、
などが報告されており、
腫瘍や炎症性疾患が引き金となっている
可能性が示唆されています。

【アミロイドは感染する⁉︎】
アミロイドは化学的に安定しており、
通常の蛋白質が変性してしまう様な、
高熱や強酸性の環境でも変化しません。

狂牛病やクロイツフェルト・ヤコブ病、
と言う神経変性疾患がありますが、
その原因は「プリオン」と呼ばれる
感染性のある特殊な蛋白質です。

以前は感染性がある事から
プリオンはアミロイドとは
別に扱われていましたが、
その性質などから近年では、
「感染性を有するアミロイド」
と言う捉え方がされる様になりました。

その様な視点から研究が進み、
プリオン以外の多くのアミロイドに
「感染性」がある事が確認されています。

とは言え
インフルエンザやコロナなどの様に、
接触感染や飛沫感染をする
と言う訳ではありません。

アミロイドーシスや神経変性疾患の
患者に多く接する医療従事者やご家族などで
発症率が異常に高いと言う報告もありません。

アミロイドが沈着した組織を食べる、
と言う様なことをしない限りは
まず大丈夫ですが、
今後研究が進むと
「患者体液に含まれるアミロイド」を
介した感染が確率は低いとは言え
成立していたりするかも知れません。

【なぜ「蛋白質」が感染するのか?】
単なる蛋白質であるアミロイドが、
どうして感染するのか?
と言う疑問を持たれると思います。

プリオンが発見された時には、
専門家達も同じことを思いましたが。

ある患者個体から採取した組織を、
別の健康な個体に食べさせたり
体内に注入したりすることで、
同じ様な症状を引き起こせる、
と言うことを分かりやすく
「感染性」や「伝播性」と言っていますが、
厳密には病原微生物が起こす感染症とは、
かなり異なります。

プリオンの知見で説明すると、
異常な蛋白質であるアミロイドが存在すると、
周囲にある正常な蛋白質もなぜか変性して
アミロイド化してしまうので、
「アミロイドが増殖した」様に見えます。

「正常蛋白質をアミロイド化してしまう」
と言うのがコレまでの感染症の概念とは
全く違うことだったので、
その発見の原因であるプリオンが、
しばらく特別扱いされていた訳です。

【実は生命活動に必要なアミロイドもある可能性】
アミロイドは悪さしかしない異常蛋白質、
と言う様な説明をして来ましたが、
近年になり生理学的に意味のある物質
である可能性も示唆されており、
「機能性アミロイド」と言う概念が
提唱されています。

機能性アミロイドは、
細菌から哺乳類まで幅広い生物で確認され、
バイオフィルム形成、メラニン合成の調節、
情報伝達などの多様な機能があることが
分かってきています。

組織内に沈着し
難治性の症状を引き起こすアミロイドと、
生体内で生理学的機能に関わるアミロイドに、
どの様な差があるのかはまだ不明です。

本来生命活動に必要なアミロイドと、
病気を引き起こすアミロイドとの間に、
まだ人類が見つけられていない違いが
あるのかも知れません。

これまで医学的な考えから
アミロイドの規則的なβシート構造は、
「誤った折りたたみ」と表現されていますが、
「生理学的に必要な折りたたまれ方」であり、
その制御が上手くいかなくなっているのが、
アミロイドーシスなのかも知れません。

【アミロイドーシスは防げるのか】
仮にアミロイドーシスの本態が
蛋白質構造の制御不全だとすれば、
何か予防出来る方法はあるのでしょうか。
残念ながら今のところはありません。

ただアミロイドーシスの中に、
腫瘍や炎症性疾患に続発する例がある事から、
腫瘍や体内の炎症を抑える様な
生活習慣や生活環境の改善により、
発症リスクを下げられる可能性はある
と個人的には思っています。

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