【グルタミン酸ナトリウムの危険性とは⁉︎】
こんにちは、Dr.K(ドクターコージ)です。
健康を意識し始めると、
「グルタミン酸ナトリウム(いわゆる味の素)は危険」
という噂を聞いたことがあると思います。
ところが詳しく調べていくと、危険と言う情報もあれば、危険性は無いと言う情報もあり、結局よくわかりません。
最近ではホリエモンこと堀江貴文さんも「危険性がある訳無いでしょ」と言う情報を発信されています。どうせホリエモンは自身がプロデュースする飲食店で旨味調味料を使いまくってるから、その正当化でもしてるんだろ、なんて思ってる方もいる様です。
自分も母親が栄養士資格を有していたことから、「味の素」には否定的なことを言われていました。祖父が刺身を食べる際に味の素を結構入れてかき回して美味しそうに食べていましたが、真似しちゃダメ、と言われたことも。
それはさておき、「グルタミン酸ナトリウム」が発明された歴史や危険だとされた理由について説明したいと思います。
【そもそもグルタミン酸ナトリウムは何なのか】
L-グルタミン酸ナトリウムは、東京帝国大学(現東京大学)の化学者、池田菊苗博士により、昆布の出汁汁から抽出されました。その後調味料としての製造法の特許を取得し、知人の会社にて事業化し、現在の味の素株式会社の礎となりました。
【グルタミン酸ナトリウムの製造法の歴史】
グルタミン酸ナトリウムが工業的に作り始められた頃は、小麦や大豆に含まれる蛋白質からグルテンを抽出し、塩酸を加え加水分解させてグルタミン酸を作り、水酸化ナトリウムを加えて中和させて作られていました。この製法は非常にコストがかかり、大量に工業的に製造するのには現実的ではありませんでした。
その為に考案された手法が、石油を精製してプロピレンを取り出し、それを原料にしてアクリロニトリルを作り、アクリロニトリルを化学処理し、グルタミン酸ナトリウムを製造する方法です。この製法で工業的に合成された化学物質を原料にしていた為に「うま味調味料」は当初、「化学調味料」と呼ばれ、「危険なもの」というイメージが定着してしまいました。
大量生産と「危険な化学調味料」と言うイメージから脱却する為に考案された、サトウキビ由来の天然材料を微生物を利用して発酵させる方法が、現在では使われています。
この製造法自体は、天然素材を微生物発酵させると言う意味で、醤油や味噌の作り方と同じやり方です。
サトウキビ液から抽出した糖液にグルタミン酸菌を加えると、グルタミン酸菌がブドウ糖を処理しグルタミン酸を作り出します。
普通に反応させただけではグルタミン酸の生成量は少ないので、生成量を増やす為に様々な工夫がされていますが、ここではあまり重要ではありませんので、省略します。
最後に、グルタミン酸と水酸化ナトリウム(苛性ソーダ)を反応させることで、グルタミン酸ナトリウムが出来上がります。
「醤油や味噌と同じ製法」と言われていますが、最終工程のグルタミン酸をグルタミン酸ナトリウムにする過程では、化学的手法を使っていますので、気になる人は気になるとは思います。
とは言え現在の旨味調味料は、発酵法で作られており化学物質を材料に化学合成された物では無いことから、「化学調味料」とは言えないです。
【グルタミン酸ナトリウム自体は危険物では無い】
1909年に食品衛生法が成立した後に、「食品添加物」と言う言葉が公用語になりました。1960年に厚生大臣(当時)が198品目の物質を指定し、その中に「グルタミン酸ナトリウム」が含まれていました。
食品添加物に関する国際連合(当時)の食料農業機関(FAO)と世界保健機関(WHO)の合同食品添加物専門家会議(JECFA)は、「グルタミン酸ナトリウム」と「グルタミン酸」の安全性・有用性を慎重に確認したところ、安全性が再確認されたと報告されました。同様の結論を出した国際機関には、「米国食品薬品局(FDA)」「ヨーロッパ食品情報会議(EUFIC)」「欧州連合食品化学委員会(SCF)」などがあります。
例外的に乳児の場合は、成人と比べて敏感なため「生後12週前の乳児には使用しないこと」とされました。コレは発がん性などの毒性が乳児に確認されたから、と言う訳ではなく、「グルタミン酸の使用に関して、妊婦および乳児を特別に扱わなくてはならない科学根拠はないが、『食品添加物の一般的見解として』グルタミン酸を生後12週以前の乳児には使用すべきでない」というのが、正確な情報です。
多くの国際機関で「安全である」とされているにもかかわらず、現在も「グルタミン酸ナトリウムは危険物だ」と考えている人々が存在しています。多くの健康意識の高い人達も、無条件に信じている方が多いかと思います。
【グルタミン酸ナトリウムは、なぜ「危険」とされたのか】
グルタミン酸ナトリウムが昆布の旨味成分として発見されたのは前述の通りですが、国際的には、主に3つの理由で危険性が示唆されていました。
1.動物実験でグルタミン酸ナトリウムの投与により、脳損傷や目の神経細胞死による失明など、神経に対する毒性を示唆する報告がありました。
2.1960年代の米国で、中華料理店でワンタンスープを過量摂取した客から頭痛、吐き気、めまい、胸痛などの苦情が寄せられ、1968年に医学雑誌New England Journal of Medicineにレターとして報告されました。利用されていた「グルタミン酸ナトリウム」が原因と疑われ、「グルタミン酸ナトリウム症候群」や「中華料理店症候群」と呼ばれました。
3.上記の様に事業化当初は化学原料から化学的製法で作られたため「体に悪い」というイメージが確立してしまった。
日本国内においては、国民的グルメ漫画とされる「美味しんぼ」において危険性や利用することへの否定的な意見が強調されていたことから、「旨味調味料は悪」と言う認識が、まるで真実の様に定着してしまった、と言う見解もあります。
【グルタミン酸ナトリウムの危険性が報告された実験】
まず、グルタミン酸ナトリウムの危険性が示唆された実験についてご紹介します。
1957年にLucas-Newhouseらは、マウスに体重1kgあたり4-8g(体重50kg換算で200-400g)のグルタミン酸ナトリウムを皮下注射することにより、マウスの網膜に神経細胞の壊死を誘発させたと報告しました。
1960年にPottsらは、新生児のマウスに体重1kgあたり3.2g(体重50kg換算で160g)のグルタミン酸ナトリウムを飲ませた結果、網膜への影響を確認したと報告しました。
1963年にCrawfordらは、脳代謝への影響を確認するために、グルタミン酸をマウスの脳内に直接注入した結果、痙攣が誘発されたと報告しました。
1969年にOlneyらは、2-9日齢のマウスに体重1kgあたり0.5g-4g(体重50kg換算で2.5-200g)のグルタミン酸ナトリウムを皮下注射し、目や脳の神経細胞の壊死が観察された実験で、脳や網膜等の神経細胞に対する神経毒性を持っていると報告しました。
冷静に考えれば、日常的な摂る量を遥かに超えた体重1kgあたりの投与をしたり、経口摂取と皮下注入、更に脳内注入を比較することなど、条件の不一致が高すぎます。
例えば、大量のカリウムを皮下、静脈、脳内に注入すれば、不整脈や心停止を起こして死に至りますが、カリウムの含まれる野菜や果物を経口摂取しても、健康な人にとっては何の問題も起こりませんよね。
グルタミン酸ナトリウムの安全性を確認したJECFAによると、グルタミン酸ナトリウムとグルタミン酸の神経毒性について59の実験は、マウス以外のラット、ハムスター、ウサギ、イヌ、サルなどの動物の新生児を用いて行われていました。投与手法も、皮下注射、静脈注射、胃内への大量強制投与がされていました。
ラット、マウスの実験で再現性が高く、サルの実験では、21件の実験のうち2件しか神経障害が見られませんでした。結論的に、グルタミン酸投与による神経障害は血液中の濃度と関連する可能性が指摘されています。
この複数の研究の分析から、グルタミン酸ナトリウムに対する感受性は動物種により異なり、マウスが一番高く、サルのような霊長類は一番神経毒性が起きにくいと言われています。
そして霊長類の実験から、人間においても一度に体重1kgあたり150mg(体重50kgで7.5g(大匙1杯))のグルタミン酸ナトリウムを経口摂取しても、神経障害を引き起こすような血液濃度には至らないとされています。
感受性の問題から、動物実験で使われた量と体重あたり同じ量、1人分の料理に計量カップ(約100g)1-2杯の旨味調味料が使われたり静脈注射されたとしても、神経毒性は出ない可能性が高いとも言えます。
以上のことからJECFAでは、「グルタミン酸における神経毒性は食事からの摂取条件では発生しない」と評価しています。
【中華料理店症候群の真実とは】
今度は前述した「中華料理店症候群」について、報告された後にどの様な評価がされているのかまとめてみます。
1980年にKennyらが、中華料理店症候群とされる人を対象にした実験で、胸焼け、ふらつき、顔や肩のこわばり、胸痛等の症状は、グルタミン酸ナトリウム摂取だけで無く、コーヒーや香辛料を加えたトマトジュースの摂取後にも起きたことを報告しました。
1985年に米国のジョージ・ワシントン大学のケニー博士が、「中華料理店症候群」とされる人を対象にグルタミン酸ナトリウム6g(大匙3/4杯)を溶かした水と、グルタミン酸ナトリウムが入っていない水を飲ませて症状を比べたところ、グルタミン酸ナトリウムと「中華料理店症候群」の症状の誘発に関連性は確認されない、と報告しました。
1986年にKennyらは再び「中華料理店症候群」とされる人に対して、グルタミン酸ナトリウムを大量に含む食事を与えても症状が再現されず、グルタミン酸ナトリウムとグルタミン酸ナトリウム症候群の関係は証明出来ないと報告しました。
更に最も客観性が高くエビデンスレベルが高いとされている「二重盲検法」による臨床試験や疫学調査が各国で行われました。その結果、当初はグルタミン酸ナトリウムによる原因があると疑われた症例でも、グルタミン酸を加えた食品を食べでもグルタミン酸ナトリウム症候群の症状は出ないことがあり、グルタミン酸ナトリウムは中華料理店症候群の原因としては特定出来ないことが確認されました。
グルタミン酸を大量投与することで、中華料理店症候群の症状やジンマシンが誘発されることから、グルタミン酸ナトリウム中のグルタミン酸が影響している可能性も疑われ、こグルタミン酸の有害性として指摘されました。
しかし、適切に計画され実施した比較試験の結果、症状とグルタミンン酸の摂取との相関関係は否定されました。
そもそもグルタミン酸は私達の体中に存在し、非常に重要なアミノ酸です。特に母乳には、昆布の出汁汁中に存在するグルタミン酸とほぼ同じ濃度のグルタミン酸が含まれています。しかし、世界中の母乳で育てられている乳児に、中華料理店症候群様の症状は報告されていません。
中華料理店での飲食後に見られた症状については、グルタミン酸ナトリウムが原因として否定された後、次のような可能性などが考えられています。
ヒスタミン中毒:中華料理及びその食材にヒスタミン含有量が高いものが多い
血中のナトリウム濃度上昇:中華料理の食塩含有量が一般的に高い
ビタミンB6の不足:ビタミンB6を補足すると、いわゆるグルタミン酸ナトリウム症候群の発症が抑えられると言う報告があります。
【食事とグルタミン酸】
食品添加物や昆布などに含まれる物だけで無く、食べ物として摂取した肉や魚及び大豆などの蛋白質が消化管で分解されると、グルタミン酸となります。毎日の食事で平均約20gのグルタミン酸ナトリウム吸収されるとも言われています。
そして小腸から吸収されたグルタミン酸の95%以上は、蛋白質合成の材料として消費されてしまうと言われており、グルタミン酸やグルタミン酸ナトリウムは全身を回る血管や脳内にほとんど入りません。
【適量摂取は大切です】
通常の食事経由ならば、グルタミン酸ナトリウムの摂取は問題ないとは思いますが、単体ではあまり旨味を感じない為に、大量に摂取しても過剰摂取に気づかないので注意が必要です。
グルタミン酸ナトリウム自体に明らかな危険性はまとめられていませんが、3gのグルタミン酸ナトリウムには、1gの塩化ナトリウムが含まれています。
グルタミン酸ナトリウムを使うと塩味を抑えられますが、つい沢山使ってしまうと大量の塩分を摂取することになります。
旨味成分としては「アミノ酸系」「核酸系」「有機酸系」がありますが、旨味成分の多くは、単体ではあまり旨味を感じません。
そして旨味成分とナトリウム塩とすることで、水溶性を高めた物が「旨味調理」として商品化されています。
グルタミン酸は、上記の通り、昆布出汁の旨味の元として有名な、アミノ酸系旨味成分です。
核酸系旨味成分としては、イノシン酸、グアニル酸があり、鰹節や干し椎茸の旨味成分として知られています。
両方のナトリウム塩を含む旨味調味料を、「リポヌクレオチドナトリウム」と表記します。
有機酸系旨味成分は、貝類の旨味成分であるコハク酸が有名です。
そしてグルタミン酸ナトリウム以外の旨味調味料も、グルタミン酸ナトリウム製造に使われる菌とは違う菌や処理が行われますが、発酵法を用いて製造されています。
複数種類の旨味成分が組み合わさることで、相乗効果があることから、単体の旨味成分だけで構成されている旨味調味料はありません。
いわゆる味の素も、実際には複数旨味成分が含まれており、グルタミン酸ナトリウムの含有比率が他の旨味調味料と比べると多い、と言う感じです。
肉や魚の料理に昆布出汁を合わせると、自然に相乗効果が起きます。
実際に料理に旨味調味料を使う際には、少量で十分です。合わせる食塩も少なめにすることで、ナトリウム過剰摂取を抑えられます。
大量に入れたからより美味しくなる訳でも無いので、必要最小限使うか、煮炊きすることで出てくる自然な旨味成分を、併用する様にしましょう。
コレを知らない料理人が、単体で味を感じないからと、大量に旨味調味料を入れることがあります。「化学調味料不使用(いわゆる無化調)」と謳っている飲食店でも旨味調味料を使っていることを、犯罪の様に糾弾する人達がいますが、上記の様に製造法が発酵法ですから、化学調味料では無いので致し方ないとも言えます。
また将来的に病気を引き起こす可能性を指摘する、健康意識の高い人達は、上記の様な歴史や事実を確認した上で、正しい対応をするのが良いと思います。
そこまでこだわるならば、「調味料不使用」の物しか食べないのが一番でしょうが、「鰹節」「昆布」「椎茸」「煮干し」などは、食材なのか調味料なのか、と言うところも微妙ですし、家庭でも飲食店でも、調味料を使わずに味を整えるのは難しいです。
出汁や調味料は、正しく知って正しく活用しする様にしましょう。
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