エビデンスとは何か?

こんにちは、Dr.Kです!

内科医であり臨床心理士でもある
斎藤清二先生の記事を拝見しました。

「エビデンスで殴る」と言うやり方はなぜうまくいかないのか?

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/66820

いわゆる「科学的手法」で客観的に為された
研究成果である医学論文ですが、
コレらの示す「エビデンス」の真の姿と限界が指摘されています。

1990年代に医学会を席捲した
Evidenced Based Medicine、通称EBMは、
誤解を恐れずに言うと、
「個別の症例に有益だった治療法を積み重ねる様なやり方」を否定し、
「特定集団に対する介入が引き起こした結果を確率論的に分析し
有意差が認められたこと」のみを金科玉条とする理論です。

「不確実性」「複雑性」「個別性」と言う性質を持つ人体、
生命体を対象とする医学において、
それは革新的なことの様に思えましたし、
多くの医師や医学会、会社が拠り所にしてきました。

しかし、あくまで「集団内の確率論的傾向」
指し示すことは出来ますが、
その介入(医療行為と言い変えても良いでしょう)が
特定の個人に及ぼす影響については
全く言及出来ず無力であると言うことです。

この記事にある様に
「エビデンスがある(特定集団内に特定の介入をした際に確率論的に有意差をもって有益な効果がある)からと言って、その効果は人それぞれ違う」
と言うことです。

つまりEBMを本当に理解している
研究者や臨床医であれば
「『エビデンスが無い』ことが個別患者への治療効果を否定する理由にならない」
ことは常識と言うことです。

あくまでエビデンスは
個別の症例においてどの様な介入をするかと言う
意思決定の際に参考情報として利用することしか出来ず、
その選択がどう言う結果を引き起こすかは全く言及出来ません。

かと言って、
個別の経験(エピソードと言われます)を
過剰に一般化することもまた、大きな問題があります

他の人に同じ介入が同様の結果をもたらすと言う保証は無く、
むしろ大なり小なり異なる結果になることの方が多いからです。

現在も過去も
「◯◯ダイエット」「◯◯式健康法」
などと言うのが乱立しており、
海外と言うか米国では少し前に
「ライフハッキング」と言う手法も流行りました。

簡単に言えば
「自分に結果の出るやり方が見つかるまで
様々な健康法を試して、自分に合うものを見つけた」
と言うことなのですが、
もちろんそれが
多くの人に同じ効果をもたらすとして
一般化できる保証は何もありません

巷の多くの健康法や代替医療は、
この様な限界があります。

しかし、現代医療はその逆であり
「エビデンスのある治療法」が
個別の患者さんに合うかどうかは全く分かりませんが、
「確率論的に集団内で有意差のある介入法」であるから
個別患者へも有意差があると
「信じて介入する」ことしか出来ないのです。

万が一期待されない結果が出ても
「エビデンスのある治療法だった」
と言うのが免罪符になる世界です。

せいぜい製薬会社へ
「有害事象報告」がされるくらいでしょう。

賛否両論あるでしょうが、
そういう意味では「信じる者は救われる」と言う
「EBM教」の様な状態ですね。

そして参考文献が多数ある書籍が信頼性が高いとも言われますが、
実は同じ話題に対して、
ソレを支持する研究がある場合、
ソレを否定する研究も存在することも少なくありません

つまり、大雑把に言えば、
自分の言いたいことに合致する研究を探して
その論文を論拠とする事で、
ある話題に対して肯定も否定も
幾らでも書けると言うことです。

また、本来やるべきではありませんが、
統計処理のやり方を調整することで、
主張したい結論が有意差を持つ様にする、
と言うことも行われることもあります。

論文やエビデンスが「研究者達の拠り所」であることは間違いありません。
しかし、その結論があなたや特定の症例に当てはまるかどうかは誰にも分からないのです。

これからの時代は「個別性」への対応がとても大切になってきます。

特に治療家の方々は、
人の身体の構造や反応が千差万別であることは
日々の施術で理解されていると思います。
もちろん共通することもありますけどね。

その人に合う食事法や運動法は、
人により異なりますので、
一番合うやり方を見つけたとしても、
最終的には個人にアレンジしたやり方が必要になります。

一番合いそうな方法を見つける前に諦めてしまったり、
最後のアレンジの際に勘違いをしてしまうこともあるので、
ヘルスコーチの様なサポート役がとても大切になるのです。

いったい何を信じれば良いのか、
分からなくなった方も多いかと思います。

最後にまとめますと、
「エビデンス」と言われる研究結果は
研究者にとってはとても重要ですが、
あくまで集団を対象とした確率論的一般論に過ぎず、
新たな発見や報告によりそれまでの常識が変わると言うことも
頻繁に起こることを理解しておくことは、
特定の理論や概念にハマり過ぎず
冷静な判断をする為にはとても大切だと思います。

なんらかの情報を見たときソレが
「何人を対象にして統計的に有意差のあること」(エビデンス)なのか、
「ある人の体験談」(症例報告、エピソード)なのかを
区別しましょう。
どちらにしても、
あなたに合うかどうかは分からないのですけどね。

あなたに適切なやり方は、
あなたが試行錯誤して探していくしか無いと言うことです。

その際に「エビデンス」を参考にするのも良いと思いますが、
過剰に信じ込まない様にご注意下さい。

少々小難しい話になりましたが、
あなたの「エピソード」を見つけられることを祈っております。

もし助けが必要な場合は、個別にご相談下さい。