尿はアルカリ化する方が良い?
こんにちは、Dr.K(ドクターコージ)です。
健康を意識している方は、ストレスや活性酸素などの影響で体が酸性化しているので、体をアルカリ化する食品を摂る様にしましょう。と言う情報を、目にしたことがあると思います。
ある意味では正しいのですが、正確には間違いです。と言うのは、体内環境は極めて厳格に酸性度(pH)が調節されており、7.35-7.45の範囲内でしか変化しません。加えて飲食物によって大きな変化がある訳でもありません。
「アルカリ性食品」と言う言い方は、1890年前後にスイスのBasel大学の生理学者、Gustav von Bungeによって提唱された物が由来です。肉(動物性食品)を食べると、硫黄(今で言う含硫アミノ酸)が硫酸たなり、体組織を酸性にするので、アルカリ性のミネラルを摂取する必要があると主張したんですね。
その判断には食材を完全燃焼させた灰を水に溶かして測定したpH値が使われました。
その仮説は日本でも議論が行われましたが、この分類は無意味だという主張が長年続けられ、マトモに研究される事はありませんでした。
そもそも体液にはpH調節重炭酸イオンが含まれ、酸性負荷やアルカリ負荷が多少あったとしても、二酸化炭素に変化したり重炭酸イオンに戻ったりして、一定のpHを維持する干渉作用があります。
今でも「アルカリ性食品」と聞くと、そんなエセ科学を信じてるのか、と鼻で笑う専門家がいるのはその為です。
ただ尿はかなり違います。酸性負荷が強い場合には尿も酸性寄りに、アルカリ負荷が強い場合には、尿もアルカリ性寄りになります。
そこに着目して海外で研究が進められ、1995年に食品の酸性負荷をPRAL(Potential renal acid load 潜在的腎酸性負荷)と言う指標で表現する事が提唱されると、対象者の食事の酸性負荷の定量が可能となったことから、様々な研究がなされ、尿のpHは、骨の健康、高齢者の筋肉量、尿路結石、痛風との関係が研究される様になっていきます。
そして2007年に世界保健機関(WHO)が、蛋白質中のタンパク質中の含硫アミノ酸(メニオニン、システイン)の酸が、骨のカルシウムを流出させることから、カリウムを含む野菜や果物によるアルカリ負荷が少ない時に、骨密度を低下させると報告し、2010年から日本の管理栄養士のテキストには、PRALを用いた食品の分類が掲載されるようになりました。
ですから「アルカリ性食品」と言うのはトンデモ科学でもなんでもなく、「『尿のpH』をアルカリ化させる食品」として科学の世界で認められる様になった訳です。今風に言うなら「低PRAL食品(いわゆるアルカリ性食品)」などと言うべきかも知れませんね。
とは言え、アルカリ性食品の説明として、「血液」「細胞」「組織」などをアルカリ化させると言ってる人がいましたら、単に勘違いされているか、正しく理解してない人だと思って良いです。
では尿をアルカリ化しさえすれば良いのか、と言うことになるのですが、実は健康な尿は弱酸性と言われています。酸性に傾き過ぎると、遺伝性尿路結石の原因物質であるシスチン、尿酸などが析出し尿路結石を作りやすくなります。アルカリ性に傾き過ぎると、今度はリン酸塩(リン酸カルシウム、リン酸マグネシウムアンモニウム)が結晶化し尿路結石を作りやすくなります。
ですから過度に尿をアルカリ化させない様にすることと、骨からのカルシウムやマグネシウムの溶出を増やさない様に、添加物に含まれる無機リン酸を摂りすぎない様にすること、マグネシウムを十分に摂取することが大切です。多くの現代人は、リンの摂取が多く、マグネシウムの摂取が足りないことが多いです。
ちなみに、尿酸は痛風発作を起こす厄介者のイメージですが、約9割が腎臓で再吸収されるくらい、体にとっては必要な物です。具体的には極めて強い抗酸化作用があることから、慢性炎症などで増え過ぎた活性酸素を中和するなどの働きがあると考えられています。
と言うことから分かるように、尿酸をむやみに薬剤で下げてしまうと、活性酸素の害などが増えてしまいます。そして尿をアルカリ化させる薬剤をむやみに使うと、今度は前述の様にリン酸塩の尿路結石のリスクが高くなります。
痛風発作後の予防措置として尿酸降下薬を一時的に使うことは否定しませんが、中長期的には食事や生活習慣などで調節した方が良いと言うことです。
色の濃い植物(低PRAL食品でもあります)に含まれるファイトケミカル(リコピン、カロテン、カテキンなど)の様な抗酸化物質を意識して摂取したり、ストレスや慢性炎症を減らす生活習慣を取り入れて、過剰な尿酸が必要無くなる様にする方が大切です。
どんな食材が低PRALなのか気になった方は「PRAL 食品」などでネット検索してみてくださいね。
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