【熱性痙攣(けいれん)について】

こんにちは、Dr.K(ドクターコージ)です。

コロナ禍において
小児や乳幼児へのワクチン接種の
是非が議論されて来ました。

オミクロン株BA.5系統を主とする第7波では、
反ワクチン派による小児への接種忌避が
子供達の間の感染爆発と熱性痙攣被害と
小児救急医療の逼迫を招いているとして、
義憤にかられている小児科医もおられる様です。

しかしCOVID-19感染に伴い、
ワクチン未接種児の重症化や死亡が
日本国内で多発していると言う報告は無く、
ワクチン接種により熱性痙攣を予防出来る、
と言う確実な情報もありません。

さらに
「ワクチン接種済ならコロナに罹らない」
と言う誤った認識から、
風邪症状や熱があっても普通に生活し、
症状がよくなったからとイベントなどに参加し、
クラスターを起こしてしまっている事例もあり、
ワクチン接種しなかった事が悪い、
と言う訳でも無い様です。

COVID-19に限らず、
そして大人か子供かに関わらず、
咳、鼻水、くしゃみ、発熱などの
呼吸器感染症のいわゆる風邪症状、
嘔吐や下痢などの消化器症状がある場合、
基本的には外出や他人との接触は避ける、
と言う事は周囲に広げ無い様にする
基本的な感染対策ですし、
病原体によって期間に差はありますが、
症状が落ち着いてから数日は、
唾液や呼気、便などから病原体が排出される、
と言う事を意識して行動する様にしましょう。

ワクチンの効果についても、
「感染予防」「発症予防」と言う効果は
かなり限定的だと思った方が良く、
接種したからと言って
その病気に罹らないわけでも
周囲に撒き散らさないわけでも無く、
実際に罹った際に「重症化」し難くなる、
と言う程度の認識が良いかと思います。

ちなみに
日本国内の小児救急医療体制の逼迫は、
補助金支給による安易な受診なども影響し、
コロナ以前から社会問題となっています。

成人医療についても同じ事が言えますが、
自主的に食事や運動、生活環境を整え、
防げる不調や病気にはならない様にし、
自宅で対処可能な不調や症状については、
なるべく医療に頼らずに対処する、
と言う意識を持つ事が大切です。

また後述する様に熱性痙攣の多くは
発作中は意識障害を伴いますので、
発熱時体温が上昇する段階によく起こる、
「悪寒(おかん)・戦慄(せんりつ)」と
見分ける事が出来ます。
震えていても呼びかけに応じられる場合は、
「熱性痙攣」では無いと思って良いです。

通常は約5分程度で意識も戻り、
特に後遺症も残りませんので、
慌てずに搬送の必要性を判断するのも、
小児救急医療をむやみに逼迫させない為に
大切な事だと思います。

何があっても家で様子を見ろ、
と言う事ではなく、落ち着けば
本来家で様子を見れる状態なのに、
むやみに休日や夜間に救急外来の
負担を増やさない様にしましょう、
と言う事をお伝えしたいだけです。

明らかに普通じゃないと感じたり、
判断に迷う場合は遠慮なく、
119番や#7119などに連絡して
相談する様にしてください。

以前から自分も含む医療関係者の間では、
解熱剤利用後の反跳性発熱により、
通常では起こり得ない高温になる事で、
熱性痙攣を誘発してしまうのでは、
と言う危惧もされていましたが、
その後の研究で解熱剤の利用が
痙攣を有意に誘発する事は無いとされ、
熱性痙攣の誘発を危惧せずに
必要に応じて解熱剤を使っても良い、
とされていますが、
解熱剤を使っても熱性痙攣を予防出来ない
と言う事も分かっています。

「解熱剤は熱性痙攣を誘発する」
「熱性痙攣予防の為に解熱剤を使う」
と言う認識は正しくない可能性が高い
と言うことです。

個人的には熱性痙攣に関わらず、
発熱は体に備わった免疫機能の一つであり、
それを無理矢理下げると言う事は、
免疫機能を混乱させたり
治癒を遅らせ病気を長引かせると
捉えていますので、
安易な解熱剤利用はおススメしません。

熱性痙攣を起こした場合でも、
2-3ヶ月程度間隔を空けた上で
当日の体調が悪くなければ、
予防接種は問題ないとされています。

最近熱性痙攣について、
質問される機会があったので、
2015年に日本小児神経学会が監修した
「熱性けいれん診療ガイドライン」に沿って
2022年現在日本国内の小児科医が
通説として認識している内容を紹介します。

熱性けいれんの有病率は、
欧米では3-5%と報告されている一方、
日本国内では7-11%と報告され、
日本国内で多くみられる病態です。

日本国内の安易な解熱剤利用が影響している、
と言う意見も以前ありましたが、
上記の様に解熱剤利用による誘発は否定的で、
国内外の有病率の違いの原因は、
ハッキリとは分かっていません。
一般に熱性痙攣と言うと、
発熱に伴い白目を剥き泡を吹いて
全身をガクガクさせる様な
「痙攣発作」を想像しますが、
症状はその様な全身痙攣だけでなく、
・急にグッタリと無反応になり唇が紫になる
・手足が時々ピクピクする
・眼球がどちらかに固定する
などの症状もよく見られます。

慣習的に「熱性痙攣(febrile convulsion)」
と呼称されていますが、
痙攣では無い症状もある事から正確には
「熱性発作(febrile seizure)」と呼ぶ方が
良いのではないかと言う意見もあります。

熱性痙攣の定義は上記ガイドラインによると、
「主に6か月から60か月(5歳)までの
乳幼児期に起こる、通常は38℃以上の
発熱に伴う発作性疾患(けいれん性、非けいれん性を含む)で、
髄膜炎などの中枢神経感染症、先天性代謝異常、
そのほかの明らかな発作の原因が見られないもので、
てんかんの既往のあるものは除外される」
とあります。

報告されている70%程度の発作は
3歳未満で出現しており5歳以降は稀です。

「熱性痙攣」が起きている時には、
脳神経細胞の一部が過剰に活動しており、
脳の二次的な障害を予防するため、
長く続く場合には薬で止める必要があります。

具体的には発作が5分以上続いたり、
意識が完全に元に戻る前に
発作を繰り返すような場合には、
救急搬送を依頼した方が良いです。

発作後に寝てしまうこともありますが、
呼びかけにハッキリ応じない場合には
中枢神経感染症などの疑いがあるので
救急受診をしたほうがよいでしょう。

5分以内に発作が治まり
意識も回復している場合、
特別な処置は必要ありませんので、
水分を十分に補給し安静にして
体温が下がり過ぎない様に保温しましょう。

以前に1回の発熱で発作を繰り返した場合、
ご家族の再発の不安が非常に強い場合、
すぐに救急搬送する事が困難な地域の場合、
抗痙攣薬のジアゼパム坐剤を常備し、
必要に応じて使う様にします。

発作後ジアゼパム坐剤を使用した場合、
同じ発熱期間内で発作を繰り返した児は
2.1%だったのに対し、
使用しなかった児の再発率は14.8%だった
という報告があります。

熱性痙攣のうち、
以下の条件の1つ以上を満たすものを
複雑型熱性けいれんといい、
それ以外を単純型熱性けいれんといいます。

①焦点発作(部分発作)の要素
②15分以上持続する発作
③24時間以内に複数回反復する発作
熱性痙攣の60-70%が単純型とされ、
何回繰り返しても認知機能を含めた
神経学的後遺症を残すことはなく、
癲癇(てんかん)を発病する確率も
高くない事が知られているため、
過剰に心配することは無いとされています。
逆に複雑型の熱性痙攣である場合は、
癲癇(てんかん)発病率は2.0-7.5%とされ、
一般人口における0.5~1.0%と比較して
高い傾向にありますが、
抗てんかん薬を予防的に使っても
発病を予防出来ないと言われています。

【参考文献】
日本小児神経学会:熱性けいれん診療ガイドライン2015. https://www.childneuro.jp/modules/about/index.php?content_id=33

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